2013年6月26日水曜日

予備校



私は日本の美大卒なので、当然美術系予備校に通っていました。
2年間の浪人生活を経て武蔵野美術大学に入学。
浪人生活を経験している人で、予備校にいい思い出のある人はあまり居ないと思います。

そんな私は今インドネシアの予備校で高校生に絵を教えています。
そこで受ける数々のカルチャーショック。

日本では、志望学科によっても違ってきますが
基本的に予備校では静物画・人物画が多いかと。

こっちでは圧倒的にガンバル・スワサナです。
ガンバルとはデッサンのことで、スワサナはシチュエーションのこと。
日本語でいうと「群像」というかんじかしら。

先生があるテーマを出して、それに沿って絵を書く。
例えば
「あなたはインドネシアのホテルで働いています。海外から沢山のお客さんがやってきました。
あなたはインドネシア人として誇りを持って働いています。それを描きなさい」
という感じ。
まぁ、この題材ならまぁ描ける。
私が教えるときは題材を考えられないし、インドネシア語が分からないので
5W1Hを生徒に一人ずつ答えさせてそれを組み合わせて題材を作ります。
アシスタントが居る時は、アシスタントに題材を考えてもらいますが
朝一の授業の時は、アシスタントがこぞってサボるので
大体あたし一人。

そして、そのテーマというのが結構シビア。
「テロがおきた!建物に人が立てこもっている!」
なんて題材もあれば
「死のプロセスを描け」
なんていう題材もある。
そうすると、人が死んでる絵とか打たれてる絵とか
自殺する瞬間の絵とかそういうものがゴロゴロでてくるわけです。
予備校で出されるテーマとしてはこんなにシビアなものが日本であったら…
いや、まずあり得ないな。

もう一つ衝撃を受けたのが
アシスタントが生徒の絵をガンガン破りまくること。
その時はあたしと他の先生と合同授業でアシスタントも6人くらいいたのですが
アシスタントが、講評中笑いながらがんがん破く・燃やす・踏む!
あたしはショックで見てられなくて教室から出て行きました。
「なんで生徒の作品にこんなことするわけ!?一生懸命書いてるのに!」
と思った。
日本の昔の予備校でも大学でも、こういうことは行われてたらしいけど
自殺者が次々出てからは、今はまずやられることはないらしい。

もちろんあたしもそういう教育を受けてない、いわゆる「ゆとり」なので
目の前で生徒の作品が燃やされた時は
自分の作品じゃないのに泣きそうになりました。

別の先生に
「なんでこんなことするんですか」
って聞いたら
「生徒のメンタルを強化するため」
とのこと。
ダラダラ書いてる生徒が自分のデッサンを燃やされて
ショックを受けて、闘志を燃やすとのこと。

理解できる。
理解はできるけど、できるけど!

授業が終わった後は大量に破かれたデッサンの山が。
あたしはとても切なくなりました。


授業が終わった後の教室の床

自分で破くならいいけど、
他人に破かれるなんて、そんなものがあっていいハズがない!

日本人のメンタルが弱過ぎだと言われればその通りだし
反論もできないけど
それよりも、なによりも
デッサンっていうのは自分の表現であって
気持ちの発露なんだからそれを他人によって破壊されるなんて
あたしは許せない。

「次は、破かれないような絵を描くぞ」
って思ってくれるならいいけども。
私は、生徒の絵には線一本入れたくないし
消したくないし
もちろん破きたくもない。
だってそれは私の作品じゃなくて
彼らの作品だから。



むむむ…

4 件のコメント:

JANE さんのコメント...

予備校で絵を描くってことは、完成度で良いか悪いか判断するんじゃなくて、
それを書いたときに自分がどれだけの事を学んだかだと思うんだよね。
どんなに他人が下手だと評価しても、自分が何か一つでも学んだ事、感じた事、思った事があれば、
その絵は評価されるべきだよね。
展覧会とか試験とかじゃなくて、予備校だからね。

破いたり燃やしたりするってことは、
その時は衝撃が強くて「くっそぉ〜!もっとがんばる!」
って思うかもしれないけど、
後からその絵からどんな事を学んだか思い出そうと思っても
もう残ってないんだもんね。
それはあまりに勿体ないことだと思うな。。。

Kuro さんのコメント...

そう。まさにそう。
こっちの学生のレベルは大学になってもテクニック的には(平均的に)ものすごい低いんだけど、やっぱり面白い作品っていうのはある。
>後からその絵からどんな事を学んだか思い出そうと思ってももう残ってないんだもんね。
本当にそうだね。過去の作品を見返す事ってそのときにはその重要性に気づいてないと思うけど、こうやって卒業してみて、その重要さがよく分かる。それが分かってる人(アシスタント)たちがそういうことをするべきじゃないとうちも思う。
師弟関係ならいいけども。彼らは別に弟子入りしたわけじゃないんだからさ。
なんか上手く言えないけども。

話が少し変わっちゃうけど、予備校ですっごいいい絵を描く男の子がいて、
「ITB行くの?」って聞いたら
「マレーシアの美術大学行きます」って言うので
「なんでインドネシア選ばなかったの?」って聞いたら、
「僕は色弱なんで、入学出来ないんです。」とのこと。
「…それは愚かなことだね。」と言ってやった。

日本の美術大学に問題がないとはとても言えないけども、インドネシアには問題がもっともっと問題がいっぱいある。

ただの美術系予備校だけども、うちが出来る事っていうのは意外と多いのかもしれないと思った。

JANE さんのコメント...

クロにしか出来ない事、いっぱいあると思うじぇ!!!!!!
インドネシアの美術教育をいっちょ変えてみてよww

Kuro さんのコメント...

ねぇ〜
まぁ変えなくていい部分との見極めっていうのに1年くらいかけて
やれることをちょくちょく導入していきたいな!

3年ぶりです

ご無沙汰しております、Kuroです。 アーカイブとしてしか機能していないこのサイトですが、 それでもある程度の方が見てくださっているようで有難い限りです。 インドネシア在住時の2年半の間は、ほぼ毎日更新しておりましたが 日本での暮らしに忙殺されて、 書こう書こうと...